文芸作品発表の場

文芸作品発表の場 @
 内藤成雄さんは、北麓文化のひとつ文芸作品のために、発表の場を二つつくった。ひとつは78年創刊の雪解流、もうひとつは89年創刊のこぶし、最近は辛夷(こぶし)。
 雪解流は「ユキゲリュウ」と読む。きびしい風土と広漠たる熔岩原をくぐり抜けた富士の融水は冬にはほのあたたかく、夏には肌につめたき源流となってこの地を潤しつつその豊かな流れを止めない。その豊かさを心として命名した  刊行のことば・雪解流創刊号。
 刊行の目的  この雑誌は主として市文化協会会員の発表の場としての文芸誌的性格をその第一の狙いとしているが、加えて広く有識の士のこの地域に密着した論説、研究、作品を掲載し、特異な「富士北麓文化総合誌」としての役割をいささかでも果たして貰いたいと望んでいる  同前。
 こぶしは新田文学を礎に、文化振興と時代の記録誌に  と題した故・雨宮丙午郎氏の文章を紹介しよう。「富士こぶしの会」は秀峰・富士山をこよなく愛しながら数々の文学を世に残した文豪、新田次郎先生の「美学」を心の寄りどころにした、町の文化人たちの集いだ。こぶしの発刊は、地域と会員たちの「かけ橋」となろう  創刊号より。

文芸作品発表の場 A
 内藤成雄さんが、2つの発表の場をつくったことが、北麓にどんな効果をもたらしたのか。北麓に住む人の中に、文芸作品を読むことに喜びを感ずる人は数多いであろう。その中に、文芸作品を作り出すことに生きがいを持っている人も多いであろう。北麓の文人の作品を北麓に住む人が読んで、生きることに喜びを感じている姿を想像すると、こちらの心も豊かになる。藤原正彦さんの言葉を引こう。藤原さんの父は新田次郎、母は藤原てい数学者であって、昨年11月出版の「国家の品格」はベストセラーである。  日本の一番の強みというのは、識字率が江戸時代から今まで、世界で断トツ1位ということ。寺子屋で読み書きそろばんを教えた根拠は「人間の知的活動で最も重要なのは読み、その次が書きそして算数」である。日本が最も誇れるものの一つは、日本の文芸です。それを一生懸命読んで、日本人の美的感覚や、もののあわれに感動してこそ、自分の国に対する深い誇りが出てくるわけです。(週刊朝日2・10)
 北麓に住む人が、北麓に対する深い誇りを持つためには、北麓に生まれた文芸作品を北麓に住む人々が広く深く読んで、北麓の良さに深く感動することだといえよう。


文芸作品発表の場B
 発表の場を2つ作った内藤さんの、心のうちを探ってみよう。
 内藤さんは若いときから物書きになりたかったと語っているが、他方、文化を語り合うグループの兄貴でもあった。北麓に住む人々が豊かに生きてほしい、内藤さんの心のうちはこの一点ではなかろうか。そんな内藤さんの思いを代弁するような随筆を紹介しよう。雪解流第10号に載っている。ひとつは、渡辺皓彦さんの文章。「住民の生活それ自体がその地域における文化である。その都市に住む市民の思想、生活信条、実際の生活の態様、さらにまちの自然や諸々の行事への参加のあり方・・・、といったものの総てが文化だ。文化が風土となり、風土が人々の生活に影響を与えそこから優れた文化が育ってくる。」
 もうひとつは、石原茂さんの文章。「靴の町として知られる豊岡市で85年に、第九を歌い聴く市民の会が開催された。それには地域活性化のための知恵が隠されていたとの指摘がある。当地の織物業界でも、優れたデザイナーや技術専門家の育成に努めるとともに、忘れてならないのは文化の裾野の広がりであり、底上げではなかろうか。」
内藤さんは、そんな心で発表の場をつくった。


文芸作品発表の場C
 文芸作品発表の場をつくった内藤成雄さんの思いは、北麓文化を素材とした文芸作品が生まれてほしいという、期待ではなかったろうか。雪解流の内容をみるとそのことがよくわかる。その一つは、シリーズ郷土の作家・全8面。筆者は第一回が渡辺寒鴎さん、2〜8回が内藤さんである。
 @雪峰の周辺。Aポール堀内の周辺。B中村星湖。C大森義憲。D山下涯石。E「小鳥の小父さん」物語。F岩佐忠雄。G増田誠ーその終焉のころ。
 もう一つは、シリーズ郷土の文人・全9回で全編内藤さんの執筆。
 @桑原幹根ー戦後の愛知史を築いた文人知事ー。A渡辺はつみー市民ひとしく仰ぐ茶宗ー。BC井伏鱒二。D渡辺瑳美ー大蓬莱と云われた医・政・文人ー。E遠山正瑛ー沙漠緑化に命をかける本市出身の実践農学博士ー。F大庭三郎ー富士北麓に合唱の花を咲かせた男ー。G山田秀峰ー富士北麓に初めて私学を導入した智僧ー。H羽田曄ー地域医療と郷土医史に人生を捧げた仁医ー。
 はじめのシリーズは5号から12号までに、つぎのシリーズは13号から22号までに掲載された。これらは、ぜひ北麓に住む人々に読まれてほしいと思う。


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